Last-modified: 2017-05-21 (日) 17:16:58 (121d)

【F-4】(えふよん)

McDonnell Douglas F-4 (F4H) "Phantom II(ファントムツー)*1".

米ソ冷戦期の1950年代後半、アメリカ海軍艦上機として開発された大型ジェット戦闘機
後述するように数々の派生型を生み出し、1980年代までの長きにわたって5,000機以上の生産を誇った*2、西側世界を代表する傑作機である。

当時、アメリカ海軍が次期艦上戦闘機として要求していたマッハ2級のミサイリアーを目指して、マクダネル社がF3H-G「デーモン」?をベースに設計したF4H-1に端を発する。
ライバルとしてチャンス・ヴォート社のF8U-3が存在したが、飛行審査の結果F4H-1が採用された(その後、機体命名法の変更に伴い名称が"F-4"へ変更された)。

当時としては高度だったレーダー火器管制装置を操作するため、専門の要員が必要となったことから、コックピットタンデム複座となっている。
強力なJ79ターボジェットを2基装備しながら、航空母艦エレベーターに収まるサイズに設計された。
その結果、太くて短い胴体に、下反角の大きなスタビレーターや折り畳み式クリップトデルタ翼を組み合わせた、独特の形状となった*3
この特異な外観から当初は「みにくいアヒルの子」とも揶揄されたが、童話よろしく後々の活躍により傑作戦闘機として評価されるようになった。
ただし特殊な設計ゆえ、アドバースヨーなど飛行特性上の悪癖も大きい。

推力に余裕があるため、その外見に似合わず数々の速度記録や高高度記録を打ち立てた。
また、搭載能力にも余裕が大きく、戦闘爆撃機としても優秀であった。
ベトナム戦争では数々の戦果を挙げ、当時の米軍でエースパイロットを生み出した唯一の機種として知られる。
元々はミサイリアーだったが、ベトナム戦争では機関砲の必要性が叫ばれたため、一部の機体にガンポッドが装着され、空軍向けのE型以降のモデルでは固定武装としてM61A1を装備した。

当初の運用者であったアメリカ軍からは1996年までに全機退役した*4が、本機を輸入及びライセンス生産した各国では、それぞれの国情に応じた能力向上や近代化改修が順次行われ、現在でも6カ国の空軍*5で数百機が作戦行動可能な状態を維持している。
また、アメリカ国内では民間の非営利団体によって1機のD型が飛行可能な状態で保存されている他、アリゾナ州のデビスモンサン空軍基地にモスボールされた機体が存在するという。

スペックデータ

用途艦上戦闘機/戦闘爆撃機マルチロールファイター
製造者マクドネル・エアクラフト(マクドネル・ダグラス)
三菱重工業(EJ/EJ改型)
初飛行1958.5.27
ユニットコスト2,400万USドル
乗員2名
(海軍型はエビエーター/RIO、空軍型はパイロット/WSO
全長19.20m
全高5.02m
全幅11.71m
主翼面積49.2
空虚重量13,757kg
最大離陸重量28,030kg
最大搭載量7,258kg
エンジンGE J79-GE-17Aターボジェット×2基
推力52.53kN/79.62kN(A/B使用時))
最大速度マッハ2.2
海面上昇率18,715m/min
実用上昇限度18,975m
フェリー航続距離1,718nm
戦闘行動半径430nm(カウンターエア
618nm(阻止攻撃ミッション)
683nm(迎撃ミッション)
固定兵装M61A120mmガトリング砲×1門(弾数639発・E/F/EJ/EJ改型のみ)
搭載兵装*6胴体下ステーション
AIM-7「スパロー」×4発
主翼下パイロン (空対空ミサイル用ステーション)
AIM-9「サイドワインダー」×4発
胴体中心線下/主翼下パイロン (主翼下は空対空ミサイル用ステーション以外)
核爆弾
M117無誘導爆弾
Mk.82無誘導爆弾
・Mk.20クラスター爆弾
テレビ/レーザー誘導爆弾
空対地ミサイル
空対艦ミサイル
・対滑走路兵器
・LAU-59 ロケット弾ポッド
・AN/ALQ-119ECMポッド
・AN/ALQ-131ECMポッド
・ターゲッティングポッド
・偵察ポッド
増槽(2271L・1400L)等


f4h.jpg

アメリカ軍の主な形式(カッコ内は生産・改修機数)

  • アメリカ海軍海兵隊航空団
    • XF4H-1(2機):
      原型機。

    • YF4H-1(5機):
      試作機。

    • F-4A(F4H-1)(45機):
      試作および初期少数生産型。
      16機目(18号機)以前と17機目(19号機)以降とでレドーム風防キャノピー)の形状が異なる。

    • F-4B(F4H-1F)(684機):
      米海軍海兵隊向けに納入された前期量産型。
  • F-4G(1):
    海軍のB型をベースに、データリンクを使用しての自動迎撃・自動着艦の実験用に改修された機体。

  • F-4J(522機):
    米海軍海兵隊向け後期量産型。
    パルスドップラーレーダーを備え、B型で装備されていたIRSTが撤去された。
    また、C型用のメインギア回りと主翼、G型で開発された機材に加え、エンジンを従来のJ79-GE-8から出力を強化したJ79-GE-10に変更された。
    アメリカ海軍における、ベトナム戦争中唯一のエースカニンガム/ドリスコル?組が使用していた*7

  • F-4N(227機):
    B型の延命改修型。
    搭載電子機器をJ型相当にアップグレードした。

  • F-4S(248機):
    J型の延命改修型。
    空戦時の運動能力向上を意図して、前縁フラップをスラットに変更している。
    しかし、従来の機体より離着陸時の安定性が悪化している。
  • アメリカ空軍
    • F-4C(F-110A"Spector")(583機):
      米空軍向けモデル。
      主な改修点としてAIM-4「ファルコン」AAMAGM-12?ブルパップ空対地ミサイル核爆弾の運用能力の付加、ブーム式空中給油装置の装備、低圧タイヤの搭載が挙げられる。
      また、海軍型とは違い、後席にも操縦機構を設けている。

      • EF-4C:
        F-105Gの後継として、暫定的にC型を改修したSEADワイルドウィーゼル)機。
        兵器搭載能力や運用面でも制約があった為、やがてF-4Gへと交替した。

    • F-4D(825機):
      C型のFCSを換装し、爆撃コンピューターの搭載やレーダーAN/APQ-109A?に換装、低空目標の探知能力を向上させるなど対地攻撃能力を強化した空軍向けモデル。
      一部は韓国やイランへ輸出された。

      • EF-4D:
        D型を改修したSEADのテストベッド機。
        実際には採用されなかったものの、この機体で開発された機材がF-4Gの信頼性向上に繋がった。

    • F-4E(1,397機):
      D型の改良型。
      機首を延長し、エンジンをJ79-GE-17に換装、新型の前縁スロット付きスタビレーターと前縁フラップを可動式スラットに変更した*8
      ベトナム戦争での戦訓から、固定武装としてM61A1を装備する。
      F-4ファミリーの全シリーズを通じて最後まで生産が行われ*9、各国に輸出された他、後述の通り、日本ではライセンス生産もされた。

    • F-4G(2):
      F-105Gの後継として開発されたSEAD専用型(ワイルドウィーゼル)。

  • 偵察型
    • RF-4B:
      米海軍・海兵隊向け偵察機。カメラに加えSLARなどのセンサーを持つ。

    • RF-4C(RF-110A):
      RF-4Bの米空軍向け。
      マッピングと地形回避用のAN/APG-88レーダーが搭載されたため、機首のレーダードームが小型化されている。
      当初から核兵器運用能力を持ち、ベトナム戦争後の改修で自衛用のAIM-9の搭載が可能となった。

    • RF-4E:
      RF-4CのエンジンアビオニクスをF-4E相当にし、C型にあった核爆弾運用能力を取り除いたもの。
      米空軍では採用されず、生産機のすべてが輸出にまわされた。
  • 標的機型
  • 計画機その他
    • F-4H:
      原形機のF4Hとの混同を避ける目的で欠番となった。

    • F-4VG:
      可変翼モデル。計画のみ。

    • F-4T:
      E型の制空戦闘機型。
      デジタル化した火器管制装置を持ち、対地攻撃能力を省略してM61A1バルカン砲と胴体下にAIM-7・主翼下にAIM-9を各4発搭載、純粋な戦闘機任務(制空戦闘および要撃) に特化させていた。
      F-15F-16などの登場で機体自体が旧式化していたために採用する国もなく中止となった。

    • F-4X/RF-4X:
      イスラエル空軍向け高々度偵察型。提案のみ。
      RB-47に搭載されていたHIAC-1 LOROPカメラを装備したG-139 偵察ポッドを胴体下パイロンに搭載し、高々度からの偵察に最適化されている。

海外での派生型(カッコ内は生産・改修機数)

  • イスラエル航空宇宙軍
    • F-4E ファントム2000(クルナス2000):
      イスラエル空軍で使用されている、E型の延命改修型。
      アビオニクスとコックピットが近代化されている。
      当初はエンジンのP&W PW1120(推力:9.5t(A/B時))への換装やA-6F用に開発されていたAN/APG-76レーダーへの換装を始めとし、カイザー製広角HUDHOTASの導入、パイソン?シャフリルといた国産ミサイルの運用能力の付加、ポップアイ?空対地ミサイル運用能力の付加、ミッションコンピュータの換装(エルビット製ACE-3)などが計画されていた。

    • F-4R(S)(3機):
      RF-4Xと同等の装備を持つイスラエル空軍向け偵察機

    • RF-4E クルナス2000:
      イスラエル空軍が使用する、RF-4Eの延命改修型。

  • イラン軍
    • F-4D(イラン改良型):
      D型をイラン軍が独自に改修した機体。
      中国製YJ-8/C-801空対艦ミサイルを装備できる。

    • F-4E(イラン改良型(形式不明)):
      E型をイラン軍が独自に改修した機体。

  • 航空自衛隊
    • F-4EJ(140機):
      E型を日本の航空自衛隊に納入すべく、三菱重工ライセンス生産したもの*10
      当時の政治的事情により、ASQ-91爆撃コンピュータなどの空対地攻撃能力や空中給油受油能力、空戦用スラットが省かれ、要撃戦闘機として生産された*11

    • F-4EJ改(90機):
      EJ型の延命改修型。
      アビオニクスが更新*12され、空対地攻撃能力や空中給油受油能力が復活、ASM-1ASM-2などの国産兵装が運用可能になった。
      その他、RWRやアナログ式慣性航法装置IFF装置等も更新された他、HUDも追加装備されている。

    • RF-4EJ(15機):
      航空自衛隊で、近代化改修の対象外となった初期型のF-4EJに長距離撮影用偵察ポッドを装着した武装偵察機
      LOROP(長距離斜め写真)撮影用ポッド運用能力しか持たない限定改修型とLOROPに加え、戦術電子偵察(TACER)及び戦術偵察(TAC)ポッドの運用能力、F-4EJ改規格のレーダー警戒装置を追加した量産改修型に分けられる。

  • トルコ空軍
    • F-4E 2020(52機):
      トルコ空軍が使用している、E型の延命改修型。
      「ターミネーター(Terminator)」の名を持つ。
      グラスコックピット化やエルタEL/M-2032レーダーへの交換、トルコがライセンス生産しているF-16に準ずるアビオニクスへの変更が行われた。
      また、エンジンの換装や燃料タンクの増設など、機体自体の改修箇所も非常に多い。

  • ギリシャ空軍
    • F-4E PI2000(39機):
      E型をギリシャ空軍が独自に改修した機体。「F-4E AUP」とも呼ばれる。
      仕様はドイツ空軍のF-4F ICEに準じているが、AIM-120AGM-130?、レーザー誘導爆弾の運用の運用能力の追加等、大規模な改修が行われている。

  • スペイン空軍
    • RF-4C SARA:
      RF-4Cをスペインで延命改修した型。
      アビオニクスを更新しAIM-9を装備可能。

  • ドイツ空軍(ルフトバッフェ
    • F-4F(175機):
      F-104Gの後継として導入したE型の改修型。
      アビオニクスを簡略化し、単座でも運用可能。
      AIM-7の運用能力が省略されている。

    • F-4F ICE*13
      F型の能力向上型。
      レーダーAN/APQ-20?からF/A-18に使用されているAN/APG-65に更新し、AIM-120の運用能力を付加している。

  • イギリス空軍
    • F-4K(52機):
      英海軍向けモデル。英名「ファントムFG.1」。
      エンジンはRB-168-25Rスペイ・Mk.202ターボファンを搭載*14
      また、レーダーをAN/AWG-11に変更し、機首のレドームを英空母のリフトのサイズに合わせる為に折り畳み式にしている。
      1978年の正規空母全廃により、全機が空軍へ移管された。

    • F-4M(118機):
      K型の英空軍向けモデル。英名「ファントムFGR.2」。
      エンジンはロールス・ロイスRB-168-25RスペイMk.202(後にMk.204)に、レーダーをAN/AWG-12に変更されている。
      K型と比べて対地攻撃能力が強化されているほか、偵察ポッドの運用能力も追加され、SUU-23/Aガンポッド用の配線も当初から用意されている。
      他にも、電源車など地上設備が無くとも、内蔵バッテリーでエンジンを始動できるなど、他のタイプにはないユニークな特徴もあった。
      1992年までに全機退役。


*1 ただし、単に「ファントム」といわれることも多い。
*2 総生産数は5,195機(アメリカで5,057機、日本で138機)。
  超音速戦闘機で、同機に匹敵する生産数を誇るのは旧ソ連のMiG-19MiG-21MiG-23しかなく、西側世界では唯一のものである。

*3 見た目と頑丈な機体からライノ(Rhino:犀)と呼ばれた。
*4 最後まで運用されていたのは、アイダホ州兵空軍のG型だった。
*5 現在の運用者はエジプト空軍、イラン空軍、ギリシャ空軍、トルコ空軍、航空自衛隊及び韓国空軍。
*6 ドイツのF-4F ICEはAIM-120、ギリシャのF-4Eはそれに加えてIRIS-T、日本のF-4EJ改は90式空対空誘導弾80式空対艦誘導弾93式空対艦誘導弾、イランのF-4はロシアや中国製のミサイルを搭載可能。
*7 このときの乗機は、帰路に北ベトナム軍のSAMに撃墜されて失われたため、現物は存在しない。
*8 サンダーバーズ所属機を除く。
*9 米本国での最終生産機は韓国空軍向けに生産された同型だった。
*10 1981年に生産された本型の最終号機(機体記号17-8440)が、F-4全シリーズを通じた最終生産機となった。
*11 これによってルックダウン能力が大幅に低下してしまい、1976年のベレンコ中尉亡命事件では日本の領空に侵入したベレンコ機を取り逃がしてしまう失態を演じてしまった。
*12 セントラルコンピューターのデジタル化やレーダーが従来のAPQ-120からAN/APG-66Jに変更された。
*13 Improved Combat Efficiency:戦闘効率改善。
*14 後にMk.203に変更。

添付ファイル: filef4h.jpg 1819件 [詳細]

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