Last-modified: 2017-01-13 (金) 21:48:23 (74d)

【抑止力】(よくしりょく)

敵対勢力に敗北主義的な決断を強要する政治的・心理的な力。
治安維持や国家防衛における最も基本的な根本原則の一つである。

人間が合理的に思考するという前提に立つなら、他者に対する攻撃は、紛争に勝利して利益を得られるという予測に基づいて行われる。
争えば敵の攻撃にさらされて悲惨な末期を遂げるに違いないと信じる時、人は他人を攻撃する事を諦めざるを得ない。

すなわち、監視と処罰を緊密に行う警察機関は犯罪を抑止し、他国を圧する強大な軍隊仮想敵国からの侵略を抑止する。
社会秩序を維持する上では、何らかの強大な抑止力によって犯罪や紛争が抑止されなければならない。
国民の安全を保証するに足る抑止力を保持していなければ、その国は国家として存続する事ができず、侵略を受けるか自壊するだろう。

何をもって抑止すべき不安要素とみなし、誰がどうやってそれを抑止するかについては政治思想や人権や経済などの観点から多様な意見がある。
しかしそれは効果と効率と管理の問題であって、抑止力という概念と、適切に運用された抑止力の有用性はほぼ確定した定説である。

例えば、ほとんどの国家は市民が銃を所持する事に規制を設けており、その是非は度々議論される。
しかし、銃が人間の抵抗力を打ち砕くもの、人間を恐怖させるもの、人間に屈辱を与え服従させるものである事は大前提であって否定されない。
議論されるのは、市民に銃所持という権能を与えるのは善い事なのか否か、市民はその権能を抑止力として正しく行使できるのか否かである。

ただし、抑止力はケースバイケースの問題であり、あらゆる場面で有効性を期待できるわけではない。
必ず逮捕され処罰を受けるとわかっていても犯罪を犯す者はいるし、生還できないと覚悟した上で爆破を試みるテロリストもいる。
敗戦は不可避だとわかっていても戦争を挑む以外に選択の余地がないような国際情勢もあり得る。
抑止力は安全をもたらしてくれるが、それは確率上の安全である。抑止力が常に万全に機能して必ず敵を諦めさせてくれるという事ではない。

また、抑止力には陥穽もある―――抑止力を機能させるために、抑止に留めず実際に暴力を行使しなければならない場合がある事だ。
必要な時には暴力を振るう事もあるのだと満天下に示さなければ、抑止力は心理的規制として機能しなくなる。
加えて、抑止力を無視して有害な行動を取る人間が実際に存在するなら、どうあれその凶行は阻止されなければならない。
恫喝や交渉による解決ができない状況では、抑止力を維持するために衆人環視の下で暴力を行使せざるを得なくなる事がある。
そして、当事者が大きな抑止力(武装)を持てば持つほど、発生してしまった紛争はより大規模で深刻な惨禍を招く事になる。

当事者が素手であるなら、トラブルが暴力沙汰に発展する可能性は高い。だが喧嘩に負けても死ぬまで殴られ続ける可能性は低いだろう。
当事者が武装している場合、当事者は言動に細心の注意を払う。刃傷沙汰に巻き込まれれば死亡する危険性が非常に高いからだ。
当事者が核兵器を所有する場合、双方とも核戦争を勃発させないために力を尽くし、それが破綻すれば人類存亡の危機まで発展する。

関連:相互確証破壊 白色テロ


トップ 編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード 新規 一覧 単語検索 最終更新ヘルプ   最終更新のRSS