【陽動】 †
Military deception.
「計略」「欺瞞作戦」とも。
敵や第三者に偽りの情報を与え、間違った判断を誘発する事を目的とする戦術的行動。
敵の行動予定を操作する事によって、味方の防御・撤退・奇襲・包囲を支援する。
古来、戦場で状況を正しく認知するのは事実上不可能で、しかし事実誤認は多くの場合に致命的である。
単なる不幸な誤解も含め、単純な事実誤認によって戦争の勝敗が決した例は枚挙にいとまがない。
こうした「戦場の霧」に伴う事実誤認を防ぐ技術は、現代に至ってさえ不十分である。
しかし、敵に対して意図的に事実誤認を起こす陽動の手法は軍事史の早い段階から発達している。
実践としては、以下のような手法が用いられている。
- 兵站などを増量し、戦力を過大に見積もらせる
- 兵士を隠れさせ、戦力を過小に見積もらせる
- スパイを使って偽りの報告を行わせる
- 実際に占領する意図のない、見せかけの突撃
- 途中で反転して防御に移る、見せかけの撤退
- 無駄な行動を、無駄に努力して洗練させ、無駄に規律正しく実行し、その行動に何か目的や価値があるように偽装する
- 理解に苦しむ意味不明な行動をとり、相手の参謀の理解を苦しませる
- 偽りの要人や兵站拠点を仕立てる
- 虚偽の降伏
陽動作戦に共通する問題は、相手側が騙されている時にしか戦術的利点がない事である。
たとえば、見せかけの突撃を行う陽動部隊は、その間、実質的に無価値な行動をしている事になる。
敵が騙されて目論み道理の動きをしてくれれば価値も生まれるが、そうでなければただの迷走である。
目的の性質上、関係各所に真の意図が通達されないまま実行される事があり、これが味方に事実誤認を引き起こし混乱を招く危険性もある。
また、陽動による事実誤認は遅かれ早かれ敵の参謀に察知され、是正される。
この是正が早すぎた場合も、陽動に従事している兵は実質的に時間と人的資源を無駄にした事になる。
それどころか、下手に陽動を試みた事によって敵に余計な判断材料を与え、自軍を窮地に陥れる事もある。
戦略全体で総体的に見た場合、陽動は危険な賭けであり、あまり望ましい行動ではない。
しかし、個々の戦場と置かれた状況によって陽動のリスクは大きく左右される。
ほんの少しのリスクで致命的な事実誤認を誘発できる状況は多くないが、希少であるとも言い難い。
また、大した陽動効果は期待せず、片手間程度の労力とリスクで些細な陽動が試みられる事も多い。