Last-modified: 2012-06-10 (日) 07:14:24 (2014d)

【天然痘】(てんねんとう)

Small pox.
天然痘ウィルスによって引き起こされる病。痘瘡(とうそう)とも。
極めて伝染力が強く、致死率も高く、人類に対して最も脅威を与えた病原体の一つである。

感染経路は主に飛沫と接触。潜伏期間は1〜2週間。
発症初期の2〜3日ほどは40℃前後の高熱、咳、頭痛など風邪に近い自覚症状を発する。
その後症状は一時改善するが、顔や全身に醜い水疱が出現。この時の痕は完治しない。
7日〜9日目に再び高熱を発し、また水疱が内臓にも生じる。
致死率は30〜50%。死に至る事例の多くは肺の損傷による呼吸不全が直接の死因となる。

発症後に有効な治療法は存在しないが、発症後2〜3週間生存すれば免疫抗体により完治する。
免疫抗体は生涯に渡って維持され、一生の間に二度以上罹患する事はまずない。

1798年、イギリスのエドワード・ジェンナーが天然痘ワクチンを開発している*1
現代では対症療法も確立しており、感染後4日以内に適切な治療を受けられれば確実に助かる。

1958年からは国連の世界保健機関(WHO)が「世界天然痘根絶計画」を実施。
1980年、1977年以降に新たな患者が世界で一例も確認されなかった事実を根拠として完遂が宣言された。
現在、天然痘ウィルスは自然界から根絶され、どこにも存在しないものと推定されている。

ただし、研究所・医療機関では今も天然痘ウィルスが培養保存されている。*2
旧ソ連で生物兵器用に培養された天然痘ウィルスが流出したという真偽不明の報告もある。
また、生物兵器として秘密裏に天然痘ウィルスを保有している疑いのある軍隊・研究機関も数多い。

天然痘がほぼ根絶された1976年以降、天然痘の予防接種は行われていない。
予防接種による免疫は5〜10年で消失するため、天然痘の免疫を持つ人間は今では皆無に近い。*3
そのため、生物兵器としてテロに使用された場合には甚大な被害が予想される。
現代でも軍隊が海外派遣される際には将兵に天然痘ワクチンが投与される事がある。

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生物兵器としての使用例

歴史上では、大航海時代にアメリカ大陸で発生した大疫禍が特に有名。

当時、「新大陸」を求めて探検・入植してきた西洋人の多くは天然痘ウィルスの保菌者であった。
そしてアメリカ大陸に当時まだ天然痘は存在せず、現地人は天然痘に対して一切の免疫を持たなかった。
結果、現地で天然痘が大流行。アステカやインカなど中南米諸国民の過半数が死亡するまでに至った。
その大混乱に乗じてスペイン人らが征服・掠奪・虐殺を繰り返し、当時の中南米諸国家は消滅の憂き目を見た。

これは当初、純然たる事故であった。しかし、やがて天然痘は「民族浄化」に活用されるようになる。
当時の入植者の多くは天然痘からの生還者か、種痘を受けた人々であり、天然痘に免疫を持っていた。
しかし一方で南北アメリカ先住民は天然痘に免疫がなく、感染を避ける衛生観念さえなかった。
結果、「天然痘患者が使った毛布などの日用品」は生物兵器として人類史上最も劇的な戦果を挙げている。


*1 人間にはほとんど症状の出ない牛痘ウィルスを用いる「種痘」と呼ばれる方法で、天然痘ウィルスが調達不可能な現代でも製造可能である。
*2 アメリカ疾病予防管理センター、及びロシア国立ウィルス学・バイオテクノロジー研究センターが保管の事実を公表している。どちらも非公開、持ち出し厳禁である。
*3 近年、弱毒化ワクチンから感染・発症した「日本最後の天然痘患者」が発見された。
  当該患者には全国から医師の見学希望や皮膚のサンプル提供などのオファーが多数あったという。


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