Last-modified: 2015-10-31 (土) 14:19:25 (722d)

【銃剣】(じゅうけん)

bayonets.(バヨネット)

小銃を携えたまま白兵戦を行う際、銃身の先端に装着する槍の穂先のような武器。
取り外して護身用のサーベル・短剣として利用可能なものが多いため、日本語では「銃剣」と称される*1

多くの銃剣は片刃で、持ち上げた銃を振り下ろす「アメリカ式」の用法に合わせて刃を下向きにするのが一般的。
旧ソ連のAKシリーズなどでは、突き刺してから斬り上げる「ロシア式」に沿って上向きに取り付ける。
どちらにせよ基本的な用途は突き刺す事であり、刃を使って斬る技術は熟練を要する。

小銃セミオートもしくはボルトアクションであった第二次世界大戦の時代までは、白兵戦用の武装として広く用いられた。
しかし自動小銃の登場後、旧来の白兵戦は至近距離での銃撃戦へと変質していった。
また、近年の小銃は小型軽量化されたため、槍として使う場合にも小型軽量で威力が頼りない。
このため、近年の銃剣は戦場で歩兵が使う「銃剣としても使える多用途工具」へと変質しつつある*2
しかし、古くから伝統的に使われてきた装備であるため、軍隊の儀礼的象徴として今でも広く用いられている。

銃剣道

銃剣は、小銃の銃身を柄として用いる槍の一種であり、用法も短槍のそれに類似する。
このため日本では槍術を参考にして考案された「銃剣道」なる武道も存在する。

とはいえ、そうした武術に「実戦的価値があるか否か」を疑問視する向きもある。
体力練成や精神的鍛錬としてはともかく、銃剣を振るう技巧を高める意味はない、というのである*3
ただし、これは「槍では銃に勝てないから」という意味ではない。
銃剣で生じる戦果の大半は、錯乱して逃げ惑う無防備な人間を背後から襲った結果だと推定されているためである。

銃剣突撃

歩兵が銃を持っていて当然の時代になぜ銃剣突撃が行われ、成功を収めたかについては説明が必要だろう。
銃剣突撃は状況次第では極めて有効な戦術であり、現代でも実行する価値がないわけではない*4

力学的に考えた場合、銃剣を構えて突撃した兵士達は、マスケット銃の斉射で薙ぎ倒されて全滅するのが自然である。
だが多くの戦場ではそうはならなかった。突撃に対する狙撃は人間工学的に多少無理があったからだ。

「雄叫びを挙げて突進する血走った目の男」が与える恐怖は、銃声のそれを遙かに上回る。
よって、突撃する部隊に対する迎撃は強烈な恐怖を伴い、多くの兵士はこれによって錯乱状態に陥る。
銃剣突撃が成功するか否かは、敵が冷静さを取り戻す前に肉薄できるかどうかにかかっている。
いったん槍の穂先が届く距離まで接近してしまえば、狼狽えた犠牲者に抵抗の余地はほとんどない。

ただし、銃剣突撃に遭遇してから1秒未満で冷静さを取り戻すような人間も希にいる。
そういう人間がフルオート掃射できる武器を持っていれば、突撃部隊には悲劇が待っている。
また、重機関銃などチームを組んで撃つ武器は、互いを励まし合って素早く冷静さを取り戻す傾向にある。

つまり、銃剣突撃の本質は雄叫びをあげて突撃する事にあり、要するに単なる脅しである。
しかし、歩兵の役割は敵の拘束もしくは排除であり、そのためには威嚇さえできれば良かった。
逃げ出した敵はで追いかける騎兵狙撃で仕留めればよく、殲滅する必要がある場合は砲兵の出番になる。
構えた銃剣はもっぱら防御のためか、泣きわめく敵兵を黙らせるために振るわれた。

ちなみに、突撃の恐怖による錯乱は、銃剣を構えて突撃する当人達にも当てはまる。
このため、敵味方が共に銃剣突撃を選択した場合には悲惨ながら滑稽な光景が展開された。
両軍ともに錯乱状態での激突は、さながら泥酔者が千鳥足で銃剣道の試合をするようなものだった。

事実、隊列を維持したまま激突が続く段階で死傷者が発生したという記録はほとんどない。
銃剣突撃で惨劇が発生するのは形勢が定まって敗者がいよいよ恐慌し、勝者が一呼吸置いてからである。


*1 銃剣としての機能だけを考えるなら単純なスパイクでも問題ない。
  実際、現代でもSKS・56式小銃・63式小銃などでは銃本体に内蔵する折り畳み式のスパイク型銃剣が採用されている。

*2 栓抜き・ワイヤーカッター・鋸・スコップ・ナイフなどとして用いられる。
*3 現代の銃剣道は広く普及させるために意図して実戦的性格を削ぎ落としてスポーツ化しているため、ある程度は当然ではある。
  とはいえ、国民体育大会の正式種目であるにも関わらず参加者の大半が自衛隊出身者で占められる辺り、普及に成功しているとも言い難い。

*4 例えば、イギリス軍は現在でも実戦で銃剣突撃を敢行し度々成功させている。
  もっとも、この戦術を真似て銃剣突撃を奨励しようとする国家はなかったが。


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