【航空母艦】 †
Aircraft Carrier.
複数の航空機(艦上機)を搭載し、これの発着及び整備を行う能力を持つ艦艇。空母。
原義を直訳すれば「航空機運搬艦」という程度の意味で、「母」と称するのは漢字特有の詩的表現である。
艦載機を運用するために膨大なペイロードを要するため、艦自体の運動性は比較的低い。
巨大な船体に比して高い巡航速度を持つ傾向にあり、旋回や加減速などの艦隊運動に不向きである。
同様の理由から武装も貧弱で*1、近接戦闘を強いられれば容易に撃沈の憂き目を見る事となる。
とはいえ、艦載機の空爆による打撃力は他の艦種の追随を許さない圧倒的なものである。
戦術的には、攻撃機によって敵の軍事目標に対しアウトレンジ攻撃をかけることを企図した兵器であると言える。
固定翼機を扱う場合は、上甲板に滑走路(飛行甲板)を備える。
しかし、飛行甲板は船体のサイズとの兼ね合いもあって、離艦・着艦に十分な長さを確保できない事も多い。
このため、離着艦を行う際は風を利用するために艦ごと向きを変える事が普通。
カタパルト・スキージャンプなど、離艦を補助する特殊な構造を備える艦も多い。
また、着艦時にはアレスティングギアを用いて強制的な急停止*2が行われるのが普通。
黎明期には艦隊護衛や、少数を多方面で運用してゲリラ的な攻撃を行う艦として運用された。
しかし、1941年の真珠湾攻撃によって航空主兵主義が立証され、艦隊決戦の主力に躍り出た。
関連:CIWS ジェットブラストディフレクター イージス艦 テイルフッククラブ 強襲揚陸艦
航空母艦の大型化とそれに伴うデメリット †
ここ半世紀、艦上機を含めてあらゆる軍用機は大型化する傾向にある。
このため、航空母艦は軒並み大型化するか、搭載機数を削減するかの選択を迫られている。
そして結局の所、正規空母は常軌を逸する規模まで巨大化の一途を辿っている。
往時の戦艦と同様、空母は国威の象徴であり、その存在は時として国際問題になるほど威圧的である*3。
例えば、アメリカ海軍のニミッツ級正規空母は満載排水量が10万トンを超える。
この規模のスーパーキャリアーになれば一隻で攻勢対航空作戦を実施する事も可能となる。
即ち、一部の列強を除くほぼ全ての国家の空軍を単独で撃滅し得るのである。
ゆえに、空母は極めて高額な兵器である。
搭載機も空母そのものに負けず劣らず高額で、勤務するエビエーターも精鋭が集められる。
最新軍事技術と軍事機密の塊であるため、防諜にかかる経済的・政治的コストも甚大である。
結果、大型空母の損失時に生じる損害は、列強各国をもってしても耐え難い規模に達している。
そのため、戦闘で失われる危険のある海域にはまず派遣されず、余程の事がない限り出動しない。
つまり、出動したと言う事はそれだけ深刻な事態と言える。
また、それほど高価な艦艇であるため、損耗を前提とした作戦には投入できない。
運用時は常に護衛艦隊を展開し、敵襲に備えた厳重な警戒網を敷く必要がある。
加えて艦艇の常として、整備・補修・交代要員の訓練などで即応できない状態になる事がある。
そのため、航空母艦を戦略的に運用するためには最低3隻を保有し続ける必要が生じる*4。
ここまで甚大な負担に耐えられる国家は非常に限られている。
実際、現代の海軍情勢において、正規空母は実質的にアメリカ合衆国の一極独占状態にある。
多くの国家は正規空母の運用を非現実的と考えており、軽空母・V/STOL空母・ヘリコプター空母を海軍戦略の基軸としている。
また、「制海艦」「多目的空母」などのマルチロール艦の構想・建造も進められている。
分類 †
※()内はアメリカ海軍での略号。
各国の主な航空母艦 †
正規空母 †
- アメリカ
- 第二次世界大戦前まで
- 第二次世界大戦中に建造
- 第二次世界大戦後に建造
- ユナイテッド・ステーツ(建造中止)
- フォレスタル級(退役)
- キティホーク級(退役)
- エンタープライズ(退役)
- ニミッツ級
- ジェラルド・R・フォード級(1隻就役。1隻が建造中、1隻が計画中)
- ロシア
- イギリス
- 第二次世界大戦後に建造
- インビンシブル(艦隊空母)(計画のみ)
- クイーン・エリザベス級
- イタリア
- 第二次世界大戦中に建造
- アクイラ(未完成)
- アクイラ(未完成)
- 第二次世界大戦中に建造
- フランス
- 第二次世界大戦前まで
- ベアルン(退役)(元・「ノルマンディ」級戦艦(未完成))
- 第二次世界大戦後に建造
- クレマンソー級?(退役)
- シャルル・ド・ゴール
- PA2(Porte-Avions2:フランス次期空母)(計画中止)
- 第二次世界大戦前まで
- 日本(大日本帝国海軍)
- インド
- ヴィラート(元・英セントー級「ハーミーズ」(退役))
- ヴィクラント(2代目。2013年進水)
- 中国
- 遼寧(リャオニン,001型)(元ロシア・アドミラル・クズネツォフ級「ヴァリャーグ」)
- 山東(002型)
- 003型
軽空母・ヘリコプター空母 †
- アメリカ
- 第二次世界大戦中に建造
- インディペンデンス級(退役)
- サイパン級(退役)
- 第二次世界大戦中に建造
- ロシア
- イギリス
- コロッサス級(退役)
- マジェスティック級(退役)
- ユニコーン(退役)
- インヴィンシブル級(退役)
- インド
- ヴィクラント(初代)(元・英マジェスティック級「ハーキュリーズ」(退役))
- ヴィクラマーディティヤ(元ロシア・改キエフ級「バクー」)
- イタリア
- 第二次世界大戦中に建造
- スパルヴィエロ(未完成)
- 第二次世界大戦後に建造
- ジュゼッペ・ガリバルディ
- カヴール(輸送艦兼用)
- 第二次世界大戦中に建造
- フランス
- スペイン
- デダロ(元・米インディペンデンス級「カボット」)(退役)
- プリンシペ・デ・アストゥリアス(退役)
- フアン・カルロス1世(強襲揚陸艦兼用)
- タイ
- チャクリ・ナルエベト(現在は事実上ヘリコプター空母として運用)
- チャクリ・ナルエベト(現在は事実上ヘリコプター空母として運用)
- トルコ
- 日本
過去に空母を保有していた国の一覧 †
- カナダ(元・英コロッサス級およびマジェスティック級航空母艦)
- ウォリアー(マグニフィセントと交換)
- ボナヴェンチャー(「パワフル(HMS Powerful R95)」)
- マグニフィセント(「ウォリアー」の後継。ボナヴェンチャーと交換)
- アルゼンチン(2隻とも元・英国コロッサス級航空母艦(退役))
- インデペンデンシア(「ウォリアー(HMS Warrior R31)」)
- ベインティシンコ・デ・マヨ*7(「ヴェネラブル(HMS Venerable R63)」)
- オランダ
- カレル・ドールマン(初代)(HNLMS Karel Doorman QH1)(元英国ナイナラ級護衛空母「ナイナラ(HMS Nairana D05)」)
- カレル・ドールマン(2代)(Hr. Ms. Karel Doorman R81)(元・英コロッサス級「ヴェネラブル(HMS Venerable,R63)」、アルゼンチンへ売却)
- オーストラリア(2隻とも元英国マジェスティック級航空母艦(退役))
- メルボルン(HMAS Melbourne R21(「マジェスティック(HMS Majestic R77)」)
- シドニー(HMAS Sydney R17/A214(「テリブル(HMS Terrible R93)」)
- ドイツ(いずれも未完成)
- ブラジル
*1 艦隊決戦の時代には8インチ以下の艦載砲・高射砲、あるいは機関銃が搭載されていることが多かったが、現代ではCIWS(機関砲・短射程艦対空ミサイル)・対潜魚雷程度にとどめられている。
*2 これを指して「制御された墜落」とも呼ぶ。
*3 アメリカ合衆国大統領は、海外で大規模な紛争・武力衝突・自然災害などが発生すると「一番近くにいる空母は?」と尋ねるという。
*4 実際には多くの国家にとって、空母は「我が国唯一」なるものであったが。
*5 同型艦の「ハーミーズ」(2代目)は後にインドへ売却された。
*6 現在、V/STOL空母へ改修中。
*7 1982年のフォークランド紛争にも参戦。
*8 第二次世界大戦終戦後ソ連に接収され洋上基地(PB-101)になる。
*9 現在、船体はオークションにかけられている。