Last-modified: 2017-02-27 (月) 19:28:41 (55d)

【軍票】(ぐんぴょう)

military currency / military payment certificate.

軍用手票(ぐんようしゅひょう)」の略。
軍隊が本国の外で現地住民と取引をする際に発行される証票。
PXなど、基地内部での取引にのみ使える「小遣い」として将兵に支給する場合もある。
古くは書類(擬似的な紙幣)として発行されたが、近年ではプリペイドカード・非接触ICカードなどの電子決済も多い。

「発行元の国家政府当局に提出すれば換金できる」という信用を価値の担保とする有価証券である。
戦略上の理由から取引に迅速さが求められるため、軍が独自の判断で発行・流通させる事ができる。

立法府が策定した予算案に従い、財務当局や中央銀行の監視下で実行する、というのが通常の国家機関における資金出納である。
だが、軍票での支払いはこの原則を無視して「事後承諾」を押し通す事ができる。
補正予算案が議会を通るまで待っていたら兵站が崩壊して軍が全滅しかねないからだ。

数万人・数十万人規模での支払いが一斉に発生し得るため、軍票の乱発は物価高騰を招く可能性がある。
また、現地でインフレが発生しなかったとしても、敗戦などで母国の国家経済が破綻すれば軍票も価値を喪失する。
軍票は領土外で配布される事を念頭におくものであるため、この事はしばしば国際的な禍根を残す。

第二次世界大戦における旧軍の例。
旧軍兵站物資の大半を現地調達に頼り、代価として莫大な軍票を占領地にばら撒いた。
結果、地域によっては煙草の巻紙代わりに使われるほど軍票の価値が暴落した所もある。

また、旧軍の発行した軍票は当時の国際法*1と講和条約の関係*2で、現在の日本国政府は支払義務を負っていない。
戦後には旧占領地の住民から正規通貨への引換を求める民事訴訟も起こされたが、これらは棄却されている。

軍票が発行される理由

そもそも武力紛争は本質的に「掠奪」である。
勝者は敗者の財産を自由に処分し、敗戦国の人間を奴隷として使役するのが慣例であった。
徴兵制のない時代の兵士(農民兵傭兵)は、戦地で強盗を働く機会があれば見逃す事なく強盗を働いた。

しかし歴史的経験を積み重ねるにつれ、掠奪はスマートな戦略ではない事が次第に明らかになってきた。
野放図に強奪すれば財源が破壊され、戦争を命じた為政者の取り分が目減りする事になるからだ。
また、自国が常に侵略の危険にさらされる情勢下では、誰しもが掠奪に対する保険を熱望していた。

本質的には国家経済の問題であって、「人道上の問題」はこの場合あまり関係がない。
実際、より多くの利益を吸い上げるために敗戦国の経済を崩壊させた事例は近代以降にも絶えない。

こうした流れから、19世紀末には戦時国際法「ハーグ陸戦条約」において、略奪を禁止する旨が明文化された。

第三款47条:略奪はこれを厳禁とする。
第三款52条:現品を供給させる場合には、住民に対して即金を支払わなければならない、それが出来ない場合には領収書を発行して速やかに支払いを履行すること。

しかし、戦地で民間からの鹵獲を禁じたことで、思わぬ副次的被害が生じた。
軍隊が多額の経費を紛争地域へ持ち出した結果、貨幣の国内流通量が不足してインフレが生じたのである。
また、流出した貨幣が敵対勢力の手に渡り、工作資金として流用される恐れもあった。
このため、戦時中の軍事経済は軍票で切り回し、経済的影響が本国に波及するのを遅らせることが定石となっている。


*1 当時、戦争における民間人の被害を政府が補償するという考えはなかった。
*2 米英など、連合国陣営に参加していた主な国々が日本に対する賠償金を大幅に減額し、講和条約発効後の支払を免除していた。

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