Last-modified: 2016-01-18 (月) 15:59:54 (645d)

【テロリズム】(てろりずむ)

Terrorism
暴力による恫喝、粛清、暗殺紛争によって政治的主張を通そうとする思想。およびその実践。
日本語では思想のみを指し、具体的な行為や計画は「テロ行為」と略して表記する。

言葉の定義を厳密に解釈するのなら、紛争当事者の全てがテロリストである。
しかし「テロリスト」という語は明らかに侮蔑表現・差別用語であり、単なる敵味方の区別を超えて恥ずべき邪悪だという観念を伴う。
公的な紛争において、それが敵であるというだけの理由でテロリストとみなすべきはない。
また、単に戦法が卑怯(ゲリラ的)である事をもってテロリストだと考えるべきでもない。
ただし、紛争地帯は暴力の必要性が劇的に増加するため、暴力に酔ったテロリストが出現しやすい環境ではある。

一般的な観念として、テロリストとは以下のような条件を満たした者たちである。

  • 非合法戦闘員が参画している。
  • どこまでの成果・被害をもって勝敗が決し戦闘を終結させるかについての指針がない
    • 軍政的な大方針なく暴力を振るうため、しばしば無軌道・無差別な大量殺戮に発展する。
  • 平和的な交渉、公共に益する福祉活動、生産的な企業活動などを担当する部門を有していない。
    • 適切な部門を有していないため、行政や民政によって穏当に解決できるはずの場面に戦闘員が関与して暴力や恫喝を行う。
  • 組織の内部においても流血を伴うようなトラブルがしばしば発生する。
  • 暴力の行使について法的な根拠がない。または訴訟、告発、裁判を回避するために暴力を行使する事がある。
  • 団体としての沿革、予算、人員の規模、掲げている思想の詳細などが公表されていないか、著しい虚構性が疑われる。
  • 人員を調達するために洗脳*1を行っている形跡がある。
  • 洗脳または戦争神経症など「正気の疑わしい」人間が放置されていて、合理的動機のない衝動的な暴力が多発する。
  • 戦闘員の保護・救出などを一切考慮しない。降伏後の尋問などを防ぐために積極的に自殺行為を奨励・強要する。
  • 犯罪を犯した同胞が適切に処罰されていない。
  • どのような人種的、文化的集団の利害を代表しているのか定かでない。あるいは誰の利害も代表していない。
  • 紛争に勝利し戦略目標を完遂した後の政治的展望がないか、実現不可能と目されるような展望を持っている。
  • 傭兵である。

総括すれば、テロリズムとは、暴力以外の手段では置かれた状況に対処できなくなってしまった惨めな人々の足掻きである。
そこに至る経緯は外部から加えられた暴力である事もあれば、ほぼ自業自得・自縄自縛である場合もある。
いずれにせよ、テロリストは暴力的な周辺環境によって決断を妨げられており、また暴力を振るう以外に行動選択の余地がない。

戦って抵抗しなければ弾圧者に殺されてしまうという場合もあるし、単に人殺し以外の方法では日銭も稼げないという場合もある。
祖国や家族を裏切ってテロ組織に身を投じたため、後悔して故郷に戻れば犯罪者として裁かれ、刑務所と絞首台しか待っていない場合もある。
本当はいますぐ警察に駆け込めばそれで解決するのに、洗脳や隔離によって判断が歪められて被害妄想に陥っている場合もある。

テロリストを理解するのは困難だが、なぜ困難なのかといえば、恵まれた人々の想像を絶するような環境で生きているためである。
多くのテロリストは「先進国の市民には理解不能」だが、同じ宗教と思想を奉ずる現地人であれば共感可能な動機である場合も多い。
とはいえ、テロ組織は次第に同胞からも乖離し、時を経るにつれ社会性を喪っていく傾向にある。暴力的な人間は誰からも嫌われるからだ。

関連:9.11事件 地下鉄サリン事件 シーシェパード よど号事件 イスラム原理主義 三菱重工爆破事件

テロリズムの背景

人々、特に暴力の行使を命じる事が可能な有力者・権力者がテロリズムに傾倒する理由は主に3つある。

白色テロ

国家体制そのものが行使するテロリズム、通称「白色テロ」は歴史上もっともよく見られるテロリズムである。
これは端的に言えば「選挙で過半数を獲得できないので、投票者数を削減して過半数を獲得する」という方策である。
もちろん有権者を殺戮して回るのは非効率であるから、対立候補を擁立する、集票能力を持った有力者が主な標的となる。
民主政治でない政体であっても、クーデターや反政府テロを抑止するためにしばしば白色テロが実行される。

こうした白色テロの思想は、政府組織が不健全である事を示す何よりの証拠である。これは異論の余地がない。
しかし現実問題として、政府組織を健全に保つためには多大な人的資源、教育機関、そして国民を養う財源が必要である。
それらを高いレベルで維持するのは困難であり、特に紛争問題を抱えた国家にとっては並大抵の事業ではない。
およそどのような国家でも完全に健全な政府を持つ事はできず、結局は程度問題に過ぎないのが実情である*2
民族対立、貧困、植民地支配などに由来する深刻な社会問題に対しては、白色テロ以外に選択の余地がない場合も少なくない。

また、政府が健全であるか否かは、民衆や有力者が政府を支持するかどうか、という問題とは全く関係がない。
究極的に言って、政府が支持されたければ国民に便宜を図るしかないからだ。
健全な国は社会保障や医療福祉を与え、発達した産業を維持する。あるいは賄賂や利権誘導を用いるかもしれない。
そして、そのいずれも不満足な国家は止むを得ず「射殺や絞首刑を免れる権利」を条件付きで配り回るようになるのである。

白色テロに最も適する体制は独裁であり、必然的に独裁者はテロリストの代表として後世に悪名を残す事が多い。
ただし、白色テロのほとんどはそうした独裁者の心根の邪悪さによって行われるものではない*3
人権に対する罪はさておき、白色テロは必要だから実行され、その決断に適した人物であるから独裁者になるのである。

反政府テロ

これは民兵もしくは非合法戦闘員による武装集合によって行われるテロリズムである。
基本的に白色テロに対する抑止力を存在意義とし、政府との交渉、または新政府の樹立を目的とする。
ほとんどの反政府テロは別の目標から始まるが、紛争という性格上、敵の打倒、つまり政府転覆を目標とせざるを得ない。

こうした反政府テロ組織は、国家政府が白色テロを十分に行わない事によって出現する。
白色テロを必要としない恵まれた少数の国家はさておき、反政府テロを防ぐ最も一般的な手段は弾圧である*4
テロリストが収容所・刑務所以外の場所で長期生存する事が不可能な情勢下であれば、反政府テロは起きない。
反政府テロは弾圧から逃れた有力者が再起を図り、反撃に出る事が可能な情勢でのみ発生する。

従って、ほとんどの反政府テロ組織は紛争直後や暴政によって治安が悪化した国家に集中する。
首都近郊に支持基盤が集中する政府に対して、地方自治体が支持基盤となって反政府テロ組織を結成する事例が最も多い。
こうしたテロ組織の活動理念が正当かどうかは個々の事例によるが、国際社会は基本的に反政府テロの正当性を認めない。
それを認めてしまったら、自国内の反政府分子を弾圧する白色テロの政治的正当性が失われるからだ。

逆に、こうした政府とテロリストの対立構造が代理戦争として利用された事例も多い。
反政府テロ組織そのものが他国のスパイによる支援を受けていた事例さえそう珍しいものではない。
テロ支援国家などから豊富な兵站支援を受け、甚だしくは大量破壊兵器さえ運用していた反政府テロ組織も多い。

テロ支援国家による支援は、反政府テロ組織の多くが政治的成功を手にできないまま終わる理由でもある。
国外の資産を使って祖国と戦う者は事実上の売国奴であり、当該国を貶める企図でスパイが構築した使い捨ての駒なのだ。
テロ支援国家が望むのはバトルプルーフと、仮想敵国が血を流して弱る事であって、本当に支援がしたいわけではない。

反政府組織である事とテロリストである事は基本的に同義語であるが、まれに例外たらんと志す組織もみられる。
弾圧された状況からでもテロリズムを否定し、非暴力的な抵抗によって国際世論に訴えかけるものである。
これは現政府がクーデター政権など人道上許し難い汚点を有する場合にしか成立しない。
しかし、現地が平和になれば貿易の市場が広がって各国の利益となるため、実現の見込みがあれば国際的な支援を期待できる。
もっとも、その平和主義者たちが白色テロの中で非暴力不服従を貫いて生存できる可能性は決して高くない。

多くの反政府テロ組織は穏当な外交戦略を行えるほどの人道的正当性を備えていない。
いったん武装してテロリストになってしまった組織は武装を放棄できないし、平和主義を唱える事もほぼ不可能である。
暴力の応酬はやがて社会問題を解決するために必要な信頼と名声と資産を破壊する事になり、かつて掲げた政治目標を達成する機会を永遠に失う。
一度そうなれば、後は生存と金銭のために暴力を振るい続けるだけの、誰の利害も代表しない存在意義不明の強盗団と成り果てる。
反政府テロが目的を達成するためには、成果を得た段階でテロリズムを放棄して政治的主流へと合流する必要がある。

また、反政府テロ組織はしばしば国境を越えて国際化する。
国内で弾圧を受けた有力者が国外逃亡を図るのは珍しい事ではなく、むしろ国内に留まるより望ましい。
テロリストは必ず兵器を必要とするので、国外逃亡者は兵站や資金を海外から提供する事で自己を正当化する*5
もちろん滞在先の国家は反政府テロリストを弾圧するのだが、それでも主戦場付近で経済活動を行うよりは安全である。

犯罪組織・利権団体・市民団体

多くの反政府テロ組織は短命である。
ある組織は事前の準備段階で当局に察知され、あるいは軍や警察との圧倒的戦力差に抗し得ずに壊滅する。
何らかの理由で勝利をつかんでも、それはより大規模な紛争を引き起こし、勝ち続けなければ存続できない状況に至る。
あるいはクーデターなどで新たな政府となり、新たな白色テロを主導し、新たな反政府テロ組織を作る引き金となる。

だが稀に、そうした結末を免れ、政府組織と停戦し(あるいは政府組織に侵食し)、奇妙な共存関係を築くものがある。
そうしたテロ組織の代表例はマフィア、市民運動、新興宗教などに見られる。
それらの組織はテロリストとしての実働戦力こそ弱体であるが*6、社会に与える影響は極めて多大である。

共通するのは、「政府そのものの転覆は狙っていないし、狙った事もない」という点にある。
それらの組織は自活可能なだけの利権を確保しており、ただその利権の確保と拡大のみを目的とする営利集団である。
ただ、その利権が一般的な良識に鑑みて、弾圧されても仕方ないようなものであるだけだ。
それは例えば麻薬などの禁制品であったり、詐欺的・暴力的な手法であったり、贈収賄であったりする。
また、こうした利権はしばしば他国の反政府テロ組織やスパイ組織と結びつく。

そしてもう一つ共通の特性として、根絶するのが事実上不可能に近いという点が挙げられる。
多くは根絶させられるのを防ぐために広い地域に少しずつ活動基盤を作り、多少の摘発は覚悟の上で活動する。
暴力団が一つ壊滅しても人員の補充は容易である。宗教や詐欺団体を解散させても、誰かが新しい手法を考え出す。
政府側がこうした組織を壊滅させた所で利権は回収できないし、そうした利権の構造を破壊するのもかなり困難である。

これらの特性によって、政府と犯罪集団との間に何らかの癒着関係が成立する余地がある。
テロ組織は捜査実績のための生贄や賄賂などを提供できるし、政府組織はそうしたテロ組織を黙認する事ができる。
こうした癒着関係は組織犯罪が世間の明るみに出れば破綻を免れ得ないため、マスコミと癒着する事も多い。
もちろん隠蔽工作にも暗黙の了解にも実行可能な限度があり、癒着関係はしばしば破綻する。
しかし、白色テロに対して正面から立ち向かうよりはずっと長く存続し、政府組織と長らく共存共栄できるのである*7

無論、そうした組織が存続する事によってそれ以外の誰かが経済的・人的な被害を被っているのだが。


*1 拉致監禁した上で暴力、薬物投与、脅迫などで精神障害を意図的に発症させ、被害者が正常な判断力を持てないように仕向ける事。
*2 それがどの程度であるかは、おおむね国民の平均所得に比例する。基本的には貧民が多い国家ほど白色テロを必要とする。
*3 少なくとも、政権発足当初は。酷薄な決断を繰り返すうちに要人や現場担当者の倫理観が麻痺していったとしか思えない例は多い。
*4 反政府テロ組織全体の統制を乱すために恩赦を与える事はあるが、これはあくまでも作戦・計略であって、政府に譲歩しない者を弾圧するという大方針は変わらないし、変えようがない。
*5 反政府テロ組織はしばしば脱走者や裏切り者の暗殺を企てる。
*6 軍事的に弱体である事は組織存続の第一条件である。政府を脅かすほど強大なテロ組織との共存は有り得ないからだ。
*7 とはいえ、麻薬などの問題はその一国にとどまらず海外にも影響が及ぶため、自国政府との関係が良好であっても海外からの圧力や武力攻撃によって関係が破綻したり、組織が壊滅することもややある。

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