Last-modified: 2017-07-24 (月) 18:45:09 (26d)

【しきしま】(しきしま)

JCG Shikishima(PLH-31).

海上保安庁が保有・運用する大型巡視船。準同型船に「あきつしま(PLH-32)」(後述)がある。
公称では「ヘリコプター2機搭載型巡視船」と呼ばれている。
海保の巡視船としてはもとより*1、世界各国の国境警備・沿岸警備隊が保有・運用する警備・救難用船舶としては最大の船である。

建造の経緯

本船は1990年代初頭、日本の原子力発電所から出た使用済みの核燃料物質を、保管されていたヨーロッパの再処理施設から日本へ運ぶ輸送船を護衛するための長距離警備用巡視船として設計・建造され、1992年に就役した。

当初、この輸送船警備任務を海自海保のどちらが行うべきかが議論になっていた。
その中で「海保が行う」とした場合、「巡視船では攻撃力が不足する*2」という批判があり、海自の護衛艦をあてることも検討されていた。
しかし、アメリカ軍から偵察衛星による航海の安全を守るための情報支援が得られるようになったこと、「巡視船では攻撃力不足」という批判があったものの、巡視船で対応出来ない攻撃を仕掛けてくる敵は現実的に考えてありえない*3と考えられたこと、また、当時の政府も自衛隊を投入する考えがなかったこと*4もあり、予定通り本船が建造される事となった。

なお、 本船の建造費はおよそ350億円であったことが、2009年6月18日の国会質疑により明らかになっている*5

設計の特徴

設計に当たっては、(核兵器にも転用可能なプルトニウムを含む)核物質を積んだ輸送船をテロリスト武装海賊から守り切ることが要求され、日本〜オーストラリア大陸〜ヨーロッパ間を無給油で走破できる航続性能(20,000海里以上)と、敵が使用すると考えられたヘリコプターや武装高速艇などによる襲撃に充分対抗し得る戦闘力を備えることとなった。

このため、船体構造は海保の巡視船としては唯一の軍艦式構造とされ、多数の水密区画に区切られて浸水を抑える工夫がなされており、携帯式の対戦車ミサイル無反動砲ロケット弾にも、数発程度なら耐えられると考えられている。
また、船橋周りの防弾にはかなり留意されており、窓の内側にはポリカーボネート製の防弾ガラスを備え、外壁にも防弾板用の金具が取り付けられている。

そして上部構造物には、当時海上自衛隊で整備の進んでいた「はつゆき」「あさぎり」型護衛艦と同型の「OPS-14?」二次元対空レーダー*690口径35mm連装機関砲RFS操作式の「JM61-RFS」20mm多銃身機銃など、軍艦に近い非常に強力な兵装が搭載された*7

機密保持

本船は任務上の見地から、幾重にも及ぶ厳重な機密保持措置がなされており、(海保の保有する他の巡視船艇とは違い)詳細な情報はほとんど公開されていない。
本来任務である「プルトニウム輸送船の護衛」につく時には、詳細な航路や航海日程は一切機密とされ、また、船内は一般には一切非公開となっている(万が一、敵に船内へ乗り込まれ奪取されることを防ぐため)。
これに加えて、本船に乗り組む乗員は、(船長などごく少数の幹部乗員を除いて)氏名を含む一切の情報が海保の職員名簿に掲載されず、人事異動のリストにも載らない*8

また、就役当初は総トン数と全長以外の性能諸元は一切発表されていなかった(現在は規制が緩和され、後述の通りこれらの数値の一部が公表されている)。

就役後の活躍

1992年の就役後、本船は第三管区横浜海上保安部に配属され、横浜港が母港と定められた*9

就役後間もない1992年11月、本船は実際にプルトニウム輸送船の護衛任務に従事した。
この時、輸送船がフランスでプルトニウムを受領した直後に環境保護団体「グリーンピース」の船舶から「抗議」と称した体当たり攻撃を浴びるも、損傷は軽微で任務遂行に支障は無く、無事日本へ帰還した。

この時の警備は、アメリカ海軍SEALsから訓練を受けた海上保安官が本船及び輸送船に乗り組んで行っていたが、これ以後の輸送においては、プルトニウムの輸送を請け負った「英国原子力公社」から派遣された武装警備員*10が輸送船に乗り込み、輸送船にも機関砲を搭載するなどの方法で実施されることとなったため、本船が核物質輸送船の護衛任務につくことはなくなった。

現在の本船は、就役当初に想定された任務に就くことこそなくなったものの、その(国境警備・沿岸警備隊の警備用船舶としては)高い戦闘力と長い航続距離を活かし、尖閣諸島周辺など、他国との利害衝突が起きやすい海域を定期的に巡回してプレゼンスを示している。
また、シンガポールやインドネシアなど、東南アジア諸国の海軍沿岸警備隊と合同で行われる海賊対策訓練にもしばしば参加している。

shikishima.jpg

重武装警備巡視船の増強

本船は(前述した計画上の特殊事情から)竣工後、20年近くにわたって同型船を持っていなかった。
しかし、2000年代に入って、日本列島周辺海域における海賊行為や海上テロ活動への対処、船舶検査を海保が一義的に受け持つこととなったため、本船1隻のみではこれに充分に対応できない*11とされ、(本船と同様に)重武装かつ長距離の警備行動に対応できる巡視船が新たに必要とされた。
当初は本船と同型の船を調達することが考えられたが、本船の竣工から20年近く経過しているため、本船の設計を参考としつつ能力を強化した「準同型」となる巡視船が2隻建造されることとなった。
このうち、2010(平成22)年度予算で1隻の建造が認められ、2012年7月に進水。「あきつしま(PLH-32)」と命名された*12

「あきつしま」は2013年11月28日に竣工し、本船と同じく横浜海上保安部の所属となった。

スペックデータ

艦名しきしまあきつしま
船型長船首楼型
総トン数7,175t
排水量
基準/満載
6,500t/9,350t
全長150m
全幅16.5m
喫水7m
深さ9m
推進方式CODAD方式
機関IHI-SEMT 16PC2-5 V400 V型16気筒ディーゼル×4基(出力20,800hp)
可変ピッチスクリュー(ハイスキュードタイプ)×2軸
バウスラスター×2基
フィンスタビライザー×2組
最大速力25ノット
航続距離20,000海里/18ノット巡航時
兵装GDM-A 35mm連装機関砲×2基4門ボフォースMk.3 40mm単装機関砲×2基2門
JM61-RFS 20mm多銃身機関銃×2基2門
搭載機AS332L1「シュペルピューマ」/EC225LP×各2機
搭載艇各2隻
全天候型救命艇、警備艇*13
6隻(両舷各1隻ずつ)
7メートル型高速警備救難艇
全天候型救命艇
高速型警備艇
GFCSRFS射撃指揮装置(20mm機銃用)40mm機関砲用FCS
レーダーOPS-14? 対空捜索レーダー×1基
JMA-8303 水上捜索用レーダー×1基
JMA-3000 ヘリコプター誘導用レーダー×1基
JMS-1596 航海用レーダー×1基
JMA-8303 水上捜索用レーダー×1基
JMA-3000 ヘリコプター誘導用レーダー×1基
JMS-1596 航海用レーダー×1基


同型船

艦番号船名主造船所起工進水就役所属
PLH-31しきしまIHI 東京工場1990.4.281991.6.271992.4.27第三管区海上保安本部
横浜海上保安部
PLH-32あきつしまIHIMU 横浜工場

JMU 磯子工場
2011.5.102012.7.42013.11.28
PLH-**-2019.予定-
PLH-**2020.予定



*1 ちなみに、日本国の公的機関が保有・運用する船舶として最大の船は、海洋研究開発機構(JAMSTEC・文部科学省所管)の地球深部探査船「ちきゅう」(59,500トン)である。
*2 法制上、巡視船に搭載が許される武装は限られており、攻撃力が疑問視されていた。
*3 そういう敵が存在するとすれば、国家の正規軍レベルの装備・錬度を持っていることとなり、もはや軍隊海軍)の領分となるであろう。
*4 当時は自衛隊が海外で作戦行動を行うことは考えられていなかった。
*5 この費用は、表向きは海保が拠出した形になっているが、実際には原子力行政を担う科学技術庁などからも(予算枠の調整により)一部拠出されていたという。
  なお、「あきつしま」建造の際には(発注の名目が本船とは違うため)海保が全額を負担したという。

*6 「あきつしま」では、プルトニウム輸送が考慮されなくなったため搭載されていない。
*7 ただし、海保は榴弾VT信管を保有・運用していないため、仮に本船が全力射撃を行ったとしても、発揮できる火力には限度がある。
*8 これは、敵対勢力のスパイ乗員に接触してきて内部情報を入手することを防ぐための措置である。
*9 なお、書類上の母港は東京港となっている(これは海上保安庁の船舶すべてに共通)。
*10 英国原子力公社は「警察隊」と称する武装警備組織を持っていた(現在は「民間核施設保安隊」と改称されている)。
*11 艦艇の常として、船体や機関・兵装などの整備・補修、交代乗員の訓練などで即応できない状態になることがあり得る。
*12 なお、本船に続く3番船・4番船の建造も計画されているが、尖閣諸島専従部隊が優先されたため、2019年以降の就役予定となっている。
*13 右舷側(しきしま3号)はプロペラ推進艇、左舷側(しきしま4号)は浅海域での使用を考慮したウォータージェット推進艇となっている。

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